移行昇華とは


移行昇華とは、布生地にコーティングされたポリウレタンやゴム引きのゴムに 色が昇華して移ってしまう現象です。ポリエステル繊維を染めるのに使う分散染料は この現象が起こりやすいです。

(昇華とは、固体から気体へ 気体から固体へと言うように、液体の状態を経ずに 変わる事をいいます。この場合は 布生地から昇華した染料成分が、ポリウレタンやゴムの中で 昇華して固体へ変わり、色が見えます)

移行昇華が起こると、プリントの柄が ポリウレタン・コーティングに移って プリント柄が2重に見えたりします。染生地とポリウレタンやゴム素材に縫い合わせ等で 密着している部分で 起こる事もあります。

いろいろな移行昇華防止の加工方法が 行われてます。また カチオン可染のポリエステルを用いて カチオン染料のみで染めると この現象は起こりません。
(カチオン可染布生地を使っていても 色によって分散染料で染めている場合もありますので 注意が必要です)

移行昇華を完全に防ぐには 酸性染料で染まるナイロン等を用いれば良いです。コーティングやラミネート布生地で 防寒着やスポーツ用素材 バック用素材等に ナイロンが使われる理由の一つになってます。

この記事は 布生地通販の生地屋店長の三浦宗之が書いています。

ダブル幅とは(W幅) シングル幅 ダブル巾 W巾 シングル巾 S巾


ダブル幅とは(W巾)、合繊織物の場合、現在では布幅140cm幅以上のものを言います。それ未満をシングル幅(S巾)と言いますが、112cm幅のものが多いです。

ただ 繊維(素材)がちがうと 呼び方も変わるようです。コットン(綿)ではシングル幅は92cm(ヤード幅 ヤール幅とも言います。1ヤード=91.44cm)のようです。ウール(毛)では ほとんど150cm幅以上のようです。
(ですので「ダブル幅とは」で検索すると いろいろな幅の答えが出てきます)

手芸店では 布生地を置く棚の長さの関係もあり、90cm幅の布生地が置かれている事が多いようです。

シングル幅では 身頃と袖や他のパーツを別々の長さで取らなければ ならない事が多く、用尺が余分に必要になります。ですが、ダブル幅では 身頃の長さの中で袖や他のパーツを取ることができて、取り効率が良くなります。

用尺が短くて済むのと(メータ単価は倍にはならない)、最近は体格が良くなってきていて 大きなサイズはシングル幅では 取りづらい場合もあるので、プロのアパレルさんは ダブル幅の指定が多いです。

ただプリント下(P下)は、プリント工場の設備がダブル幅に対応してない工場も多く シングル幅の布生地が主体になります。

幅はあくまでも公称で、その幅までパターンが取れますよ(端には いろいろな歪が残っているので 実際にギリギリまで取る場合は あまりありません)と言う意味です。実際には公称幅以上ある事が多いです。(数センチですが)

倍の長さでないのに ダブル幅と言うのは、いろいろ調べましたが よくわかりませんでした。身頃の長さの中で 袖等他のパーツも取れるので ダブル幅と言うのかも知れません。

この記事は 布生地通販の生地屋店長の三浦宗之が書いています。

転写捺染とは(テンシャナセン transfer style print) 転写 転写プリント


転写捺染とは、単に転写とか転写プリントとも言い 子供の遊びに使われる「写し絵」と同じ手法です。あらかじめ 図柄を紙に印刷しておき、布生地に重ねて圧力と熱を加えて 図柄を転写させる方法です。

多品種少量生産に向いているので 近年日本で盛んに行われるようになりました。インターネットでも オリジナル柄で衣装等のオーダーを受けるお店も増えてきているようです。
(インクジェット・プリンターで 図柄を印刷して使用)
よさこい屋オーダー

優れた点としては下記があります。

  • 多色で自由な柄が作れる(工業生産のプリントは色数等の制限項目が多い)
  • 水等を使わずに 廃水も発生発生しないので 環境に優しい
  • 簡単な小規模な設備で 捺染(ナセン プリント)可能
  • 少量でも比較的低コストで生産できる

短所としては下記があります。

  • 中量以上では コスト高になる
  • 深みのある濃い色は出にくい(表層だけで捺染するため)

主流は ポリエステル繊維の昇華転写捺染(乾式転写捺染)と呼ばれる方法で、ポリエステルを染める分散染料が移行昇華しやすい欠点を 逆手に取った捺染方法です。
(昇華とは 固体から液体を経ずに いきなり気体に変化する現象です。反対に気体から いきなり固体になる場合も昇華と言います)

親水性の天然繊維では 熱を乾式ではなく蒸気を用いた湿式転写捺染をします。

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手捺染とは(テナセン) ハンド ハンドプリント(hand screen printing) ハンドスクリーン(hand screen printing)


手捺染とは、ハンドとかハンド・プリントとも言い(スクリーンを用いたものは ハンド・スクリーンとも言う)、型紙 スクリーン ブロックなどに模様を彫刻し、手工芸的に布生地に捺染する方法の事です。

大きく分けて下記の4種類があります。

  • 型紙捺染(カタガミナセン):美濃紙(ミノガミ)に生渋(ナマシブ)を張り重ね、漆(ウルシ)などを塗布します。これに模様を彫刻して布生地の上に載せて捺染します。
    .
  • スクリーン捺染:木製または金属製の枠に 篩絹(フルイギヌ 現在は絹製ではないと思います)を張った枠型を使います。篩絹の網目の模様以外の部分を膠(ニカワ)やラックなどでふさぎ捺染します。
    (シルク・スクリーンと同様の方法)
    .
  • 摺り捺染(スリナセン):刷毛(ハケ)を使って 型紙の上から染料をすり込みます。ぼかしを出すときに使います。
    .
  • 絞り染め(シボリゾメ):防染剤(ボウセンザイ)を施した糸で、下絵に従って固く絞り これを染めます。そうすると 絞られたところが染まらず模様になります。

少量生産の場合は 機械捺染よりスクリーン捺染のような手捺染の方が コストが安くなります。多くのハンド・プリント工場は112cm巾(シングル巾)の設備しか持っていない所が多く ダブル巾P下生地が一般的でない理由の一つです。

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ソウコウとは(綜絖 heald ヘルド)


ソウコウとは(綜絖)、英語でヘルド(heald)と言い 織物織機で織るときに 経糸をつっておくものです。(下記写真の赤丸部分。この写真は アウベルクラフトさんより拝借してます)

ソウコウ(綜絖 ヘルド heald)

ソウコウ(綜絖 ヘルド heald)

アウベルクラフトさんは 上記手織り織機を14万円くらいで販売されてます)

大昔は 上記写真のように紐でできていましたが、鋼の針金→板状のヘルド(大別して2種類あり、板厚の薄いものと 厚いもの。厚いものは金属板を打ち抜いて作ります)と 進化してきてきました。

筬(オサ)に次いで 機屋(ハタヤ 織物製造業者 織布業者)の大切な道具です。織機の高速回転化に伴って 非常に速く消耗するようになりました。傷ができたり 曲がっていたりすると、経糸が切れたり 経筋(タテスジ)などの生地の欠点になります。

ジャガード織機では ソウコウは現在でも紐製で 福徳液などの強化液で強化して使います。ソウコウ自体をつっている外側の枠は ソウコウ枠(綜絖枠)と言います。

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オサとは(筬 reed)


オサとは()、下記写真のようなもので 織物を織るときに 経糸を通しておくものです。(2番目の写真。これらの写真は 日本竹筬技術保存研究会さんより 拝借してます)

筬の写真(上:金筬 下:竹筬)

筬の写真(上:金筬 下:竹筬)

筬の使われ方

筬の使われ方

大昔は竹筬を使用していたようですが、現在は工業生産する場合は金筬(カナオサ 金属製の筬)しかつかいません。
経編(タテアミ ニットの種類の1種)機の、導糸針を1列に並べて取り付けた板も 筬と言います)

昔は 金筬は機屋(ハタヤ 織物製造業者 織布業者)の財産と言われましたが(半永久的に使えた)、織機の高速回転化に伴って 消耗品となりました(筬が磨耗して傷がついたりして 使えなくなります)。

一つの羽(ハ 筬ではこの字を使います。英語でreed split/reed dent 通常鋼かステンレスです)の隙間に通常1~6本の経糸を通し、これによって織物の経糸密度がほぼ決まります。

(織縮み 染加工縮みなどで、筬密度x通し本数より実際の織物経密度は多くなります。「羽二重」は一つの隙間に2本糸を通す事から 名前がつきました。エアージェット・ルームでは 空気の拡散を少しでも防ぐために 突き出た窪みのある筬羽になってます)

この筬羽に傷がついたり 羽が曲がったりすると、経糸が切れたり 経筋(タテスジ)などの生地の欠点になります。

金筬は 金属製で上下(専門用語で「天地」と言いいます)が固定され 通常「鯨寸(クジラスン 約3.875cm)」間の羽数で密度を表わします。

織物の経緯(タテヨコ)の糸密度も 昔は鯨寸間の本数で表されていたようですが、海外規格のインチ(吋 inch 2.54cm)間の糸本数で 通常表わすようになりました。

金筬は 上下のバネで羽が挟まれており このバネの厚みとコイルの数で密度が決まります。このバネと羽を固定する方法には ハンダで固定する方法と樹脂で固定する方法があります。ハンダの方が耐久性があり 製造現場で傷んだ時に直しも効きますが、ハンダは製造時に熱をかけるために 精度が狂いやすい欠点があります。樹脂製のは現場直しが効きません。

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ケミカルウォッシュとは(chemical wash)


ケミカルウォッシュとは、ジーンズを人工的に中古風に加工する方法の一つで、塩素系の漂白剤を混ぜた洗剤で ムラになるように脱色する加工の事です。化学的にするので ケミカルと言います。

ストーン・ウォッシュの方法を併用して、ゴムボールや軽石などを一緒に入れると こすれて使い込んだような自然な感じに脱色できます。
(まだら模様になります。私も大昔 ジーンズを塩素系の漂白剤で 脱色しましたが、ただ洗濯機で回すだけでは 使い込んだ感じには脱色できませんでした)

1986年にイタリアのライフル社が世に送り出した、一世を風靡した加工方法です。2011年初め頃より人気再燃しているようです。

ただ 塩素系の漂白剤と 軽石等を使った加工は 布生地自体を傷めます。
(私は 個人的には好きになれません。ストーン・ウォッシュの項でも書きましたが、製品の寿命を縮める上に 有害な薬品を使ったりで環境負荷が高いです。塩素系の漂白剤は 布生地を傷めますので あまり頻繁に使わない方がいいです。

私の母がそうで、綺麗になったように見える(リンク先の最後を参照)ので 頻繁に使い、よく下着や服が破れました(笑)

この記事は 布生地通販の生地屋店長の三浦宗之が書いています。

ストーンウォッシュとは(stone wash)


ストーンウォッシュとは、人工的に中古風に加工する方法の一つで、軽石 人工研磨石 セラミック等を入れて洗う加工方法です。ジーンズが有名ですが、ジャンパー 皮製品等にも使われます。

ジーンズでは、柔らかくなり とてもはき易くなります。また「アタリ」(擦りきれ)もできて ジーンズ特有の顔(表情)が出てきます。

元々は 河原の石を使っていたようですが その後人工研磨石が使われ(ストーン・ウォッシュの名前が定着)、軽くて機械に負荷の少ない軽石が使われるようになりました。今では セラミックやゴムボール(バイオ・ウォッシュに使用)も 使われるようになってます。

軽石には 大 中 小と大きさがあり、人工研磨石には 三角形 四角形 星型 球形などの形があります。使っていく内に だんだん小さくなるので、一定時間稼動させると ふるいにかけて 小さくなったものは除いて 新しい石を補給するそうです。

新しい石には 尖った部分もあるので、一度空回しして 丸みをつけるそうです。

ですが、下記のような いろいろな問題もあります。

  • ポケット等の砂(石の屑)を 取り除いてやらなければならない。(たぶん 人手でポケット布を裏返して 出しているのだと思います)
  • 大量に発生する砂をどう処理するのか(ケミカル・ウォッシュの場合は 次亜塩素酸ソーダ等の薬品が入っているので よりやっかい)。
  • 頑丈な洗濯機(ワッシャー)が必要で 機械の傷み方も速い。
  • 同じ機械で 製品染めなどをすると、砂の残りや機械の中の傷で その製品に擦り切れやアタリが発生する。

(余談ですが、私個人的には 古着加工は好きではありません。確かにカッコいいかも知れませんが、製品の寿命を確実に縮めます。有害な薬品を使ったり、機械の損耗を速めたりと環境にも優しくありません)

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セルロースとは(cellulose)


セルロースとは、コットン(綿) 麻やレーヨン ベンベルグ アセテート等の主成分で、植物のほとんどは この成分よりできてます(植物細胞の細胞壁の主成分、全植物成分の1/3を占めると言われてます)。自然界に最も多く存在する炭水化物(有機化合物)です。

(化学式や物性等の詳細は 次をクリックしてください。 セルロース )

水や熱水に溶けず 人間は消化する事ができません。(草食動物は消化できます) 第五の栄養素と言われる 繊維素はセルロースからできています。

セルロースは、1838年フランスのパヤン(Anselme Payen, 1795‐1871)によって、高等植物の細胞(セル)壁を構造する糖の意味で名づけられました。1844年 マーセル(John Mercer, 1791‐1866)はセルロースとアルカリの反応(マーセライズ加工 マーセリゼーション)を研究し、工業的利用への道を開きました。

めがね枠のセルや セルロイド製に人形は、セルロース化合物で 硝酸セルロースです。(非常に燃えやすいので 現在では あまり使われてません)

この記事は 布生地通販の生地屋店長の三浦宗之が書いています。

バイオ加工とは


バイオ加工とは、特殊な酵素を使って微生物に布生地の表面を食べさせる加工です。

セルロース(コットンやレーヨンの主成分)の分解酵素(セルラーゼ酵素)を利用したもので、微生物を含むバイオ溶液につける事によって、布生地を柔らかくしたり 古着感覚を出したりします。

ジーンズなどの洗い加工の一つです。固くて欠点の多い繊維だったテンセル(リヨセル)は この処理等(柔らかくする加工には 他にも「もみ処理」「たたき処理」等があります)によって 柔らかい布生地になりました。シルク(絹)の精練(練り)や ポリエステル減量加工と同じような手法です。

この記事は 布生地通販の生地屋店長の三浦宗之が書いています。